古来から伝わる日本独特の高貴な空間の演出技法
結界 「仕切る」と「つなぐ」の共存
結界(けっかい)とは、空間を仕切るときに用いる境界を表します。
ただし、結界という日本語は、「間仕切る」という意味のみならず、「異なる空間どうしをつなぐ」という意味をもつことが大きな特徴です。つまりひとつの同じ空間を、一方の空間を聖域、もう一方を俗域とする明確な境界であると同時に、お互いの気配が分かる程度に一体感をゆるやかに感じることができる曖昧な仕切りでもあるのです。
農耕民族であった日本人は、古来より引き続いて現在も、自然界(森羅万象)つまり身の回りいたるところに崇拝すべき神が宿っているという多神教の考え方<八百万(やをよろず)の神>をもっています。のちに崇拝の対象は、自然だけではなく政の対象であった天皇家の現人神を含めるようになりました。この影響もあり、日本人は、祖先など敬うべき人物を祀る場所も神聖な場所として考えるようになりました。そのような神聖な空間と俗界の曖昧な境界が「結界」です。
結界の例は、1000年以上昔の平安時代の貴族の住まい、寝殿造りという建築様式に見ることができます。寝殿造りに住んでいた貴族は、四季の変わり目などに、季節の素材を使いながら、来訪客に対する感謝や歓待の意味を込め、室内を装飾する儀式<室礼(しつらい)>を行っていました。
室礼 「おもてなしの気持ちを込めた室内装飾」
室礼は、平安時代の書物である源氏物語にも記載されている調度品のことを当時指していましたが、現代では来客をもてなすために室内を装飾する行為という動詞(しつらえる)としても使われるように変化しています。つまり単なるインテリアコーディネートとは異なり、来客への歓待の気持ちを込めた自然素材を用いたインテリアデザインとして引き継がれています。
